【シカトリス】評価・レビュー 約300種類のスキルなど、難解な育成要素が異彩を放つ異能×学園RPG

総評
教師となって異能使いの少年少女を導く異能×学園RPG。ほぼ全てのイベントが立ち絵だけで構成されたトーリーに物足りなさを覚えた反面、育成・バトルシステムは高評価でした。
良かったところ
難解だが魅力を秘めた育成要素
対策を練って難敵に挑むバトルシステム
悪かったところ
荒削りで遊びにくいUI
ほぼ立ち絵だけのストーリー
後半になるほど悪化する戦闘テンポ
3
B
ジャンル 異能×学園RPG
ハード PlayStation 4
PlayStation 5
Nintendo Switch
発売日 2023年6月29日
発売元 日本一ソフトウェア
開発元 日本一ソフトウェア
公式サイト リンク
プレイ時間 ストーリークリアまで20時間~
※プレイスタイル・ループ回数によって大きく異なる

 日本一ソフトウェアがおくる異能×学園RPG「シカトリス」のレビュー記事です。

 教師となって異能使いの少年少女たちを導いていく本作。約300種類のスキルを中心に、複雑な育成要素が際立つ作品です。事前に開示された敵の情報を元に対策を練って挑むバトルシステムも高評価。遊び方を理解するハードルは高いですが、魅力的なゲームデザインでした。

 学園生活と異能事件を描いたストーリーは、ほぼ全てのイベントが立ち絵のみで構成されており、演出の物足りなさを覚えました。イベントスチルは6枚しかなく、季節のイベントなどは淡々と進行していきます。ループの起点となるバッドエンディングも4種類しかありません。

 演出不足のストーリーに加えて、荒削りなUIや戦闘テンポの悪さが評価の足を引っ張り、惜しさを感じる作品でした。

演出に物足りなさを覚えるストーリー

 教師となって異能使いの少年少女たちを導いていくストーリーは、教師・学生としての学園生活と、「予備対異常異能班」として異能事件に対応する2本の柱で構成されています。各キャラクターは何らかのトラウマを抱えており、過去の傷を乗り越える王道展開だけでなく、バッドエンド・ループ要素が存在する点も特徴的です。

 フルボイスとはいえ、ほぼ全てのイベントが立ち絵のみで構成されているため、演出面は物足りなさを覚えました。イベントスチルは6枚しかなく、プロローグ・エンディングとバッドエンドのみで、ほぼ全て公式サイトに掲載されています。文化祭やクリスマスといったイベントは会話だけで済まされており、光景は想像で補完するしかありません。

 バッドエンドが4種類しかなく、1キャラクター1種類未満だった点も残念でした。バッドエンドが存在しないキャラクターは、被害者や暴走を止める側でフォーカスされるとはいえ、本人が悲劇的な結末を迎えないのは期待外れです。バッドエンド要素は本作を購入する要因の1つだったので、全員分が存在しないのは肩透かしを食らった気分でした。

難解だが魅力を秘めた育成要素

 様々な要素が複雑に組み合わさった育成は、限られた時間の中で生徒たちを計画的に成長させるパズルのようなコンテンツです。授業で獲得する8種類の「基礎力」で、約300種類存在するスキルを習得しつつ、戦闘のレベルアップでステータスを伸ばしていくのが基本になります。

 基本だけならシンプルですが、付随する様々な要素が難解です。キャラクターごとに基礎力の適性が存在する。受けられる授業にはランダム性があり、常に狙った基礎力だけを獲得できない。15種類の「専攻」によって獲得スキル・基礎力ボーナスが変化する。他にも体調管理や得意・不得意科目など、意識しなければならないことは山盛りです。

 レベルアップ時に増加するステータスは「基礎力」に連動していますが、項目名がRPGでは馴染みないもので、覚えるまでは育成を直感的に行えません。物理・魔法攻撃も破織・虚織攻撃に置き換わっており、細かいこだわりがややこしさを助長します。効率的な育成以前に、各種要素や項目同士の関係性を把握するだけでも一苦労でした。

 余りにも複雑で、遊び方を理解するハードルは高いですが、慣れるにつれて試行錯誤が楽しくなってきます。特に、膨大なスキルの組合せを習得手順まで含めて考えるのは、本作独特の面白さでした。難解さが好みの分かれそうな部分ですが、ハマる人にとっては非常に魅力的なゲームデザインです。

対策を練って難敵に挑むバトルシステム

 難解な育成要素に対して、戦闘も癖の強い内容です。ベースはターン制コマンドバトルですが、選べるコマンドは生徒たちが提案してきたスキルに限られます。実際に行動するのは提案を選択した生徒1人だけです。主人公は提案の選択に加えて、特殊な「オーダースキル」やアイテム使用が行えるため、基本は生徒が攻撃、主人公がサポートする体制になります。

 更に一風変わった仕様として、戦闘前から敵の情報が開示されており、事前に対策を練って挑めます。生徒の基礎力が高ければ、弱点・耐性からスキル構成まで全て確認できるため、初見殺しは発生しません。代わりに尖った性能を持ったエネミーが多く、しっかり対策しなければ苦戦必至の難敵ばかりです。戦闘の直前でセーブが行えるため、パーティー構成の練り直しと再戦が行いやすい点は好感触でした。

 大量のスキルを駆使して戦うため仕方ないところもありますが、生徒たちのパッシブスキルが増えるにつれて、戦闘のテンポが悪くなるのは改善してほしい部分でした。1つのログを表示するのに掛かる時間は0.4秒程度とはいえ、1ターンで数十のログが流れるため、戦闘時間の長期化につながります。演出省略のオプションだけでなく、戦闘自体の高速化も欲しかったです。

ストーリー・バトルの両方に影響するループ要素

 本作のストーリーにはループ要素が取り入れられており、バッドエンド到達、また任意選択でゲーム開始時点から再スタートになります。初回のみ強制ループですが、2周目以降はバッドエンドを回避できるため、スムーズに進めれば1度のプレイでクリアも可能です。

 バッドエンドに限らず、戦闘で詰まった際もループに頼ります。本作は1度の周回で行える戦闘回数が限られているため、敵に勝てないからといって直前にレベリングが行えないからです。育成不足で対策を練っても先へ進めない場合、難易度を下げるか、再スタートで解決するしかありません。

 再スタートした時は、前周よりもゲームに対する理解が深まっていることに加えて、経験値や獲得金増加といった周回ボーナスを得られます。ボーナスに割り振るポイントは戦闘評価やバッドエンド到達で獲得できるため、基本的には前回よりも多くのボーナスに割り振って再挑戦できる仕組みになっていました。

 ちなみに、周回ボーナスのフラグはシステムデータに記録されるので、意図的にバッドエンドを見てから、直前のデータをロードして先へ進んでも回収できたのは助かりました。ストーリークリア後に挑める最高難度のため、バッドエンド回収に周回を繰り返す必要はありません。

評価の足を引っ張った荒削りなUI

 ゲームシステム自体に不満はないのですが、複雑で情報量の多い内容に対して、UIが荒削りな点は評価の足を大きく引っ張りました。見たい項目が用意されていなかったり、頻繁に確認する情報を表示するのに手間が掛かったりと、至るところで遊びにくさが目立ちます。

 例を挙げると、「基礎力」の合計値を高めたい際、合計増加値の表示がないため自分で計算しなければならない。カンストしている「基礎力」を無駄に上げてしまう授業の判別が付かない。戦闘中に敵の情報を確認したい場合、味方のステータスを開いてから、敵味方切替えとワンクッション操作が多い。戦闘中に表示されるログが小さいなど、きりがありません。

 ただでさえ慣れるまでに苦労するゲームシステムに加えて、馴染みない項目も多いので、少しでも快適に楽しめるようUIにはもっと洗練してほしかったです。

さいごに

 まだまだ語りきれない要素が多く、『よくここまで複雑に作り込んだな』と感心してしまうゲームでした。ストーリーやUIなど惜しい部分も多いですが、体験版を遊んで、序盤から息つくひまがないシステム開放・TIPS表示にワクワクできる人にならおすすめできる作品です。