【ボイドテラリウム | PS4/Switch】評価・レビュー ユニークなシステムが特徴的なローグライクお世話RPG

総評
ローグライクの探索と、少女のお世話を並行して行う、奇抜なRPG。長い通路ばかり生成されるアルゴリズムなど、作りの荒い部分が目立つものの、本作でしか味わえないユニークな面白さも備えた作品です。
良かったところ
ロールとスキルを組み合わせた育成要素
独特の仕様で一風変わったローグライク
悪かったところ
感情移入しにくいストーリー
頻発するアプリケーションエラー
当たっても外れても打撃音が鳴る攻撃SE
無駄に長い通路ばかりのダンジョン形状
3
B
ジャンル ローグライクお世話RPG
ハード PlayStation 4
Nintendo Switch
発売日 2020年1月23日
発売元 日本一ソフトウェア
開発元 日本一ソフトウェア
公式サイト リンク
プレイ時間 ストーリークリアまで16時間

 日本一ソフトウェアがおくるローグライクお世話RPG「void tRrLM(); //ボイド・テラリウム」のレビュー記事です。

 ローグライクの探索に、ヒロイン「トリコちゃん」のお世話要素を組み合わせた、ユニークなジャンルが目を引く本作。トリコちゃんのために自殺で帰還したり、ダンジョン内で死んでも失われる物がなかったりと、一般的なローグライクとは大きく異なる各種仕様も特徴的です。

 ロールの選択によって、ランダムで獲得できるスキルを制御できる育成要素が好感触だった反面、ローグライクとしての完成度が低かったのは残念でした。特に、長い通路ばかり生成されるアルゴリズムによって、無駄な移動時間と満腹度の消費が積み重なるダンジョン形状は、終始ストレス要因となっています。

 トリコちゃんとのコミュニケーションが希薄なストーリーなど、癖の強い部分も多く、良くも悪くもユニークな面白さを備えた作品でした。

ローグライク×お世話の新ジャンルRPG

 本作の目標は、最後の人類である「トリコちゃん」を生存させることです。生活環境を作るための材料や、汚染されていない食料を求めて、主人公のロボットはダンジョンを探索します。ダンジョンはローグライクとなっていますが、ただ敵を倒しながらアイテムを集めるだけではなく、平行してトリコちゃんのお世話も行う独特の形式です。

 お世話要素が加わったことで特に影響が大きいのは、ロボットのエネルギーとは別に、トリコちゃんのお腹も減っていく、満腹度の二重管理です。エネルギーは消費アイテムによって回復可能なのに対して、トリコちゃんの食事は直接与えなければならないため、延長不可能な制限時間になります。どれだけ順調に探索が進んでいても、『お腹が空いた』とアラームが鳴ったら、テラリウムに帰らなければなりません。放置し過ぎると病気になってしまうため、状況によっては自殺してでも帰還します。

 代わりに、ダンジョン内で死んでも、失う物は何もない安全設計です。途中で死んでも、最下層までたどり着いても、全てのアイテムが同じ基準で資源に変換されるため、帰還を迷う場面はほとんどありません。同時に、ローグライクらしい緊張感が失われていたものの、序盤~中盤はトリコちゃんの腹持ちが悪く、頻繁に呼び戻されてしまうので、バランスを取るための思い切った仕様という感触でした。

ローグライク自体の完成度は今ひとつ

 お世話要素を取り入れたことで、ユニーク性の高いゲームになってはいるものの、ローグライクとしての完成度は、お世辞にも高いとはいえません。特に、長い通路と行き止まりが量産されるダンジョン生成アルゴリズムは、常にストレスの要因でした。二重の満腹度管理が存在するにもかかわらず、移動の大半が不毛というのは、プレイするモチベーションを大きく削られます。

 通路の移動において、自動で高速に進む機能がないのも、配慮が足りていません。フロアの外周をグルっと回るような長い通路も頻繁に出現するため、ダッシュボタンと方向キーを押し続けながら、移動を眺めるだけの時間も多かったです。エネミーが登場しない固定フロアですら、無駄に広くて満腹度も消費されるため、プレイヤー体験を考慮せず、自己満足的に作られている印象でした。

 ダンジョンの形状以外にも、頻発するアプリケーションエラーなど、様々な不満点が散見されます。その中でも特筆したいのは、通常攻撃のSEが1種類しか用意されていないことです。攻撃が当たっても外れても、同じ打撃音が鳴ります。表示上は「ミス」なのに、ロボットは何かを殴っていて、違和感しかありません。一撃の成否が命運を分ける状況も多いローグライクで、手抜きのような甘い作り込みは、残念としかいいようがありません。

スキルとロールでプレイスタイルを制御する育成要素

 装備の強化どころか、アイテムを持ち帰ることもできない本作において、育成要素はクラフトによるボーナスとカスタマイズに集中しています。前者は、トリコちゃんのテラリウムに設置できるオブジェを作成することで、基礎ステータスが強化される要素です。特殊なオブジェを作成すれば、トリコちゃんの腹持ちが良くなったり、テラリウムが汚れにくくなったりと、探索の制限時間延長にもつながります。

 もう1つの育成要素は、探索開始時点の所持スキルや、ロールをセットするカスタマイズ機能です。ダンジョン内での成長は、レベルアップ時にランダムで覚えられるスキルに依存されているのですが、セットしているロールによって、出現するスキルをある程度まで制御できます。複数のロールを組み合わせられるだけでなく、不要なスキルを抽選から排除する機能も用意されており、自分のプレイスタイルに合った成長方針を構築可能です。

 高レベルになるほど、カスタマイズによる違いが明確になるだけでなく、運が良ければ探索序盤で強力なスキルを獲得できる場合もあって、素材目的で単調になりがちな探索の、良いアクセントになっていました。他の要素が今ひとつの中、ロールとスキル獲得システムの組み合わせは、最大の評価ポイントです。

コミュニケーション不足で味気ないストーリー

 ストーリーは、「ファクトリーAI」さんとの会話を中心に進行していきます。トリコちゃんに必要なアイテムの調査から、行き先となるダンジョンの提案まで、行動の指針はファクトリーAIさん任せの欠かせない存在です。その反面、トリコちゃんとのコミュニケーションが不足していたのは、気になるポイントでした。

 能動的な動きがなく、お世話されるがままのトリコちゃんは、全てにおいて受け身です。もちろん、庇護欲をかき立てられる部分もあるのですが、ストーリー進行において直接関わる部分が少なく、空気のような存在になっていました。相棒のように補い合って活動する、ファクトリーAIさんの方が、位置づけとしてはヒロインだった印象です。

 一応、テラリウムのカスタマイズや病気の発症など、トリコちゃんのために用意されたコンテンツも存在するものの、いずれもストーリー進行において寄り道でしかありません。テラリウムのカスタマイズは、ロボットの性能やトリコちゃんの活動に影響がなく、完全に自己満足。病気に至っては、普通にプレイすると最後まで発症することがないくらい低頻度のバランスです。実際、私がクリアまでに発症したのは、試しに無理な探索を行った1度限りでした。病気イベント自体も、治療に必要なアイテムを集めるお使いだけで、ストーリー進行における遅延行為でしかありません。

 コミュニケーションが乏しく、トリコちゃんに愛着が湧かない状態であるにもかかわらず、終盤には重大な決断が用意されており、今ひとつ感情移入ができなかったことも評価を下げる要因でした。

さいごに

 ところどころに光るところがあるとはいえ、総合的にはギリギリ及第点という評価でした。ストーリーに関しては、好みが分かれる部分なのでプレイヤー次第としても、ダンジョン周りの不満やアプリケーションエラーが調整・修正されてからプレイした方が楽しめると思います。

 序盤をプレイできる体験版も配信中です。一押しのロールシステムは堪能できないですが、基本的なダンジョン探索を確認できます。製品版への引継ぎはできないものの、ローグライクとして許容できる内容かどうか、購入前のプレイを推奨です。要素の解放によって、製品版になると面白さが増すため、体験版で悪くない感触なら楽しめる可能性の高い作品でした。