【Idol Manager(アイドルマネージャー)】評価・レビュー 業界の光と闇を描いた異色のアイドル育成シミュレーション

総評
ビジネスとしての事務所経営がメインのアイドル育成シミュレーション。業界の光と闇を包み隠さず描いた作風で、時にはアイドルを消耗品として使い潰す覚悟が求められました。きらびやかなだけのアイドルゲームでは満足できない人におすすめの作品です。
良かったところ
業界の光と闇を描いた作風
遊びごたえのある序盤の経営
悪かったところ
中盤以降の難易度調整不足
3
B
ジャンル アイドル育成シミュレーション
ハード Steam
発売日 2021年7月27日
発売元 PLAYISM
開発元 Glitch Pitch
公式サイト リンク

 Glitch Pitch/PLAYISMがおくるアイドル育成シミュレーション「Idol Manager(アイドルマネージャー)」のレビュー記事です。

 事務所経営をメインコンテンツにしたアイドルゲームとなる本作。キラキラとした表側の輝きだけを楽しむのではなく、裏側のマネジメントまで併せて体験するゲームです。事務所内のイジメやスキャンダルといった、アイドル界の闇を描いたイベントも多彩でした。プレイヤーは、時には誠実に、また時には手段を選ばず、トラブルに対処しなければなりません。

 事務所経営SLGとしては、序盤の難易度がかなり高いです。アイドルを消耗品と割り切って、使い潰す覚悟でプレイしなければ、あっという間に破産します。下手に優しくしても、結末はアイドルと心中です。ある程度まで事務所の規模が大きくなると、極端に難易度が低下する点は気になったものの、遊びごたえは十分でした。

 普通のアイドルゲームでは満足できず、裏側や生々しい部分まで含めて堪能してみたい人におすすめの作品です。

ビジネスとしてのアイドル事務所経営SLG

 本作は、一般的なアイドルゲームとは異なり、ビジネスとしての事務所経営がメインコンテンツとなっています。アイドルのプロデュースが業務内容ではあるものの、アイドルやスタッフの給与、活動による収支といった金銭面も意識しなければなりません。キラキラとした表側の輝きだけを楽しむのではなく、裏側のマネジメントまで併せて体験するゲームです。

 登場するアイドルは、一部を除いてランダム生成となっており、オーディションで採用します。8種類のステータスや多彩なスキル、誕生日・年齢まで、アイドルの設定はかなり詳細です。スキルは必ずしもポジティブな物とは限らず、ネガティブなスキルを備えたアイドルも登場します。能力値が高いと、給与も高くなりがちなので、事務所の規模に見合ったアイドルでなければ手に余る場合もあり、採用1つとっても悩ましい要素です。

 CD販売、メディア発信、コンサート、総選挙など、活動内容は多彩ですが、全てにおいて収支がつきまといます。CDを販売するだけでも、最近のトレンドからジャンル・歌詞・振り付けを選択。さらに、現在のファン数や過去の販売実績を参考に、制作枚数を手動で決定します。アイドルのスタミナを代償に握手券を付けるなど、プロモーションでファン数以上の枚数を売ることも可能です。どのように売り込んでいくかはプレイヤー次第でした。

 ゲームモードは、「ストーリーモード」と「フリーモード」の2種類。「ストーリーモード」では、様々なイベントをこなしながら、最終的には「スポーツの祭典」でのライブ実施を目指します。海外製の日本アイドル界を描いた作品ですが、リアリティとエンターテインメントが程よく入り交じった内容で好感触でした。マルチエンディング形式で、グッド・バッド併せて9種類と、分岐も豊富です。

資金繰りに悩まされるシビアな序盤経営

 マネジメントが重視されるゲームデザインのため、資金繰りが悪化すると、破産によるゲームオーバーが発生します。難易度「ノーマル」でも、かなり遊びごたえのある難しさとなっており、行き当たりばったりのプレイでは、あっという間に破産しました。丁寧なチュートリアルが用意されているとはいえ、ゲームに慣れるまでは、何度か破産を体験しながら遊び方を覚えることになります。

 特に、事務所の規模が小さい序盤は、アイドルを大事に育てている余裕がありません。良心を捨てて、アイドルを消耗品と割り切り、利益を追求する前提のゲームバランスです。中途半端に優しい経営をしていると、結果的にアイドルと心中することになります。できるだけ低賃金で、スタミナ・メンタル管理はトラブルを起こさないギリギリをキープ。事務所に不要だと判断すれば、容赦なく解雇です。非情な決断をしなければアイドル界では生き残れません。

 救済措置として、ゲームオーバーが発生しない難易度「ルーズ」も用意されています。資金がマイナスの状態でも、各種プロデュースを実施できるため、かなり自由なプレイが可能です。とはいえ、序盤の苦しい経営を乗り越えるのも、本作の醍醐味なので、公式としては初プレイでの選択は非推奨とされていました。

イジメやスキャンダルが横行するアイドル界

 アイドル界の光と闇を描いた作品ということで、本作では、様々なスキャンダルやトラブルが発生します。男性との熱愛報道から、SNS・動画配信での炎上まで、バリエーションは豊富です。それぞれの問題に対して、プレイヤーは対処を選択しなければなりません。誠実に行動することが必ずしも正解ではなく、場合によっては開き直ることで事態が好転するパターンもあります。逆に、誤った対処をしてしまうと、グループに対して悪影響が生じました。

 中でも、一部のスキャンダルで発生する「スキャンダルポイント」は、グループ存続に関わる問題です。ファン獲得においてマイナスとなるだけでなく、ポイントが累積するとアイドルが離脱。最終的には、ゲームオーバーに至ります。獲得した「スキャンダルポイント」を減らすのは容易ではなく、時間を掛けて解消しなければなりません。緊急時には、責任を取らせる形で、アイドル・スタッフを解雇するのも選択肢の1つでした。

 アイドル同士のイジメや、内部の派閥争いも日常茶飯事です。アイドルとのコミュニケーションを通して、調査や改善を行わなければ、アイドルのメンタルが減少します。誕生日を迎えるとステータスが変動する点も要注意です。10代ならステータスが伸びやすいのに対して、20代になると「キュート」を中心に低下が目立ち始める生々しい要素でした。オーディションで採用する際には、ステータスやスキルだけでなく、年齢まで注意しなければなりません。

 メインストーリーにおいても、他のプロダクションを出し抜いたり、出し抜かれたりといった展開が存在します。破産寸前の状況に陥ると、『金を払うからアイドルを一晩貸してくれと言われたらどうする』と問われるイベントや、多額の報酬を受け取ってメンバーを縁故採用する展開まで用意されており、闇の深さに困惑する場面も多かったです。

プロデュースを彩る豊富なコンテンツ

 深い闇ばかりではなく、アイドルプロデュースの面でもコンテンツは豊富です。アイドル育成、CD販売、メディア発信、総選挙、劇場運営など、マネジメントの手段は多岐にわたります。結果に影響はしないものの、楽曲名や番組名を自分で決められるため、こだわりのグループを作り込むことも可能です。もちろん、考えるのが面倒なら、ランダム生成できるボタンも用意されています。

 事務所の方針に関しても、かなり細かく設定できます。給与調整やトレーニングは自動化を選べるので、それぞれさじ加減を選んでおけば、あとはスタッフが勝手に対応してくれました。グループのイメージや体制についても項目が多く、スキャンダルを防ぐためにSNS・恋愛を禁止したり、狙ったファン層を獲得するためにスカートの長さを調整したりと自由自在です。

 経営が苦しいときは、消耗品になりがちなアイドルですが、余裕ができればコミュニケーションを行えます。雑談で「友好度」を上げれば、イジメや派閥についてヒアリングを行い、グループ内の交友関係を知ることも可能です。リスクはあるものの、アタックで「恋愛度」を上げれば、アイドルとのデートイベントも起こせます。「恋愛度」を最大まで上げれば、その先へと進む選択肢も出現しました。

 細かいところでは、引退したアイドルの動向を確認する項目もあります。内容はランダムながら、驚くような第二の人生を送っていることもあれば、行方不明になっているアイドルも存在。たまにチェックすると面白いです。一定の条件がそろっていれば、引退後にスタッフとして残ってもらう選択も選べました。現役アイドルと元アイドルで構成された事務所経営も夢ではありません。

難易度調整の不足を感じた中盤以降

 序盤は、厳しい資金繰りの中でプロデュースするゲームですが、経営が軌道に乗ると、極端に難易度が下がってしまう点は残念でした。特に、「劇場」を作ってサブスクリプションサービスを始めると、放置していても収支がプラスで安定します。他にも、抜け穴的な金策が複数存在するため、気付いてしまうと資金が青天井に増加していきました。

 資金が潤沢にあると、お金の力でスキャンダルを解決できる場面も多いです。事前にスケープゴート用のスタッフを雇っておけば、「スキャンダルポイント」を獲得しても即座に解消できます。シビアな序盤を乗り越えたからこその成功であり、いつの間にかプレイヤー自身がアイドル界の闇に飲まれている気もしますが、ゲームとしては過剰なくらい良い方向にサイクルが回りました。

 お金を稼ぐ必要がなくなれば、ストーリー進行の条件となる活動以外を行う理由がありません。下手にスタミナを消費すると、トラブル発生などのリスクにつながります。終盤はストーリーだけを追っていると退屈になってしまうため、平行して実績解除やランキング制覇など、自分で目標を決めて遊ぶ必要がありました。

さいごに

 ところどころでインディーゲームらしい大味な部分が目に付いたものの、同時に自由な発想のコンセプトが際立ちました。

 SLGとしての秀逸なバランスや、無限に遊べる奥深さを期待しての購入はおすすめできませんが、他のゲームでは体験できない遊びを楽しめる作品です。