文章の隅々まで意味が盛り込まれた、完成度の高いストーリーを堪能しました

 テキストを読む事に集中してプレイしても約25時間。たいてい早クリアの自分が没頭して遊んでも4日間も掛かった長大なストーリーながら、不自然さや納得できない部分が殆ど無くて、徹底的に物語の構成を練り上げて作られたんだろうなと感じさせられる作品でした。ベタ褒めの冒頭ですが順を追って感想を書いて行こうと思います。

序盤、好きな方から遊べるA/Bルートに加えて体験版と言う存在の仕込みは秀逸

 「どちらのシナリオを先にプレイするかで、この物語の質感、各人物への印象は、なぜか180度変わってしまう──そんな仕掛けが施されている」これに関しては前にも記事で書きましたが、プレイの合間に上手く表現するにはなんと言えば良いだろうと考えてみたら互いが互いのルートに対して絶妙に計算されたネタバレを含ませる事で成り立つ印象操作ですよね。

 そしてネタバレが故に、片方の順番で見てしまうと逆順を楽しむ事は出来なくなる1回限りの手法ですが、それに加えてAルートに結末が全く違うノーマルエンドとグッドエンドを用意し、ノーマルエンドにしかたどり着けない体験版を用意する事によって[A>B]か[B>A]以外の[A>B>A]と言う第3のパターンを作っているように感じた。

 これは自分の勝手な想像ですが、そのパターンならAルートを2度美味しく遊ぶ事が出来るんですよね。もしかすると本作品を一番楽しめるのは余計な予備知識を仕入れずに体験版A>製品版B>製品版Aのルートを遊んだ人かもしれません。しかし、それをプレイ予定の人に直接お薦めしてしまうと意識されてしまうジレンマ。すでに発売してAノーマルAグッドと遊べるようになった今となっては人にお勧めするのは難しい……

それが本当に真実なのか疑いたくなる。虚構の現実が嘘のまやかし

 自分でも何を言ってるかよくわかんないですね! でもイメージはこんな感じ。A/Bルートの印象操作を含め、序盤から様々なところに違和感が散りばめられており、それらが伏線となって物語の真相が解明されている流れはよく有る謎解きADVらしいです。しかし、物語が進んで行くに連れて真実だと思っていた展開には更に真実があると言う事が露見して、それまでプレイヤーが持っていた常識や前提を大きく覆す展開は個人的にかなり好みでした。何より更なる真実が出てくるまでは、一度教えられた話をプレイヤーが完全に信じてしまうくらい説得力がありましたからね。

 各人物の繋がりも伏線だと思っていなかった部分が意外な所で繋がったり、記憶操作や記憶喪失を上手く利用して1人の人物ですら複数の要素を持たせる作りには感服。あえて言うなら”少し伏線としてプレイヤーに対する情報が少なすぎる”と感じる部分も有りましたが、あそこまで隙の無い作り込みをされるとその程度は些細な問題かと思わせられてしまいます。

全てが高評価では無く、システム面では面白さを損なう部分もありました

 本作の魅力の一つである「センシズシンパシーシステム」 複数人に対する感覚を調整する事で単純な選択肢とは違った形で物語を選んでいく斬新なシステムであり全員を救いたい。誰かを救いたいと言った柔軟な選択が出来る画期的な要素でしたが、正解/不正解が選択した時点で明示される事は物語に対する緊張感を損なわせていて残念でした。

 確かに単純な選択では無く、それまでの展開なども視野に入れて様々な要素から答えを考えなければならないシステムなので、好感度の視覚化や正否判別が無ければ簡単にはエンディングにたどり着けない高難易度ADVになってしまいます。しかし、センシズを入力した時点で正解だとわかってしまうと例えその後どれだけ危機的状況に陥っても「選択肢が正解だったからゲームオーバーにはならない」と言う予想が付いてしまって台無しでしたよ。せめてオプションでON/OFFを選択出来るか初回選択では正否判別がされない仕様にして欲しかった。

終盤に入って登場する「RAM System」はいくら何でも乱用し過ぎ

 もう少し早くから登場して偶に使用するくらいなら良かったんですが、終盤に登場したと思ったら以降は殆どが「RAM System」を使った過去視になってしまい、展開に盛り上がると言うよりも残った伏線を消化する作業に感じてしまうのは辛かった。同じ情景を複数視点で繰り返すだけでなく、同人物でも少し変化を加えて同内容を繰り返すのは流石にくどかったです。これは長時間通してプレイしたから感じてしまった可能性も有るのですが、もう少し端折って重要な部分をピンポイントで見る事が出来た方が嬉しかったですね。

ストーリー評価とシステム評価が分かれたものの総評としては満足

 何だかんだとマイナス部分も有りましたが、ストーリーのクオリティが高い事には間違い無く、最後まで遊んでストーリー内容は理解したとは言え、後日設定資料的な物が発売されたら購入して物語全体を俯瞰してみたいと感じる程ですね。きっとプレイ中には気付かなかった仕込みや、ゲーム内で語りきれなかった部分も有ると思うので是非とも発売されて欲しい。クリアしてからも興味を残すADVなんて本当に久しぶりで、それほどに自分は本作を気に入ってしまったようです。